リトルリーガーズショルダー(上腕骨近位骨端線離開)の治療期間・リハビリ・ストレッチ・トレーニング
成長期の野球選手においては肘障害の発生頻度が圧倒的に高く、肩障害は比較的まれですが、肩障害の代表的なものとして、繰り返す投球動作によって生じる上腕骨近位骨端線離開(リトルリーガーズショルダー)が挙げられます。
10歳~15歳頃に好発する骨端線の障害とされ、障害の約半数が投手でパフォーマンスの高い選手に好発するという報告があります。
身体所見では、外観上明らかな変形や腫れはみられませんが、
- 上腕骨頚部の圧痛(図1)
- 抵抗下の外転・内旋・外旋時の疼痛
を認めます。
図1(梶田幸宏ら:成長期の野球選手における肩関節障害. 関節外科 2020より引用)
重症度は単純X線所見による兼松らによる分類があり、骨端線の開大度合いで3タイプに分けられます(図2)。
図2(梶田幸宏ら:成長期の野球選手における肩関節障害. 関節外科 2020より引用)
ほとんどがⅠ型かⅡ型で、Ⅲ型はまれです。
リトルリーガーズショルダー(上腕骨近位骨端線離開)の治療期間
予後の良い障害です。外科的治療を要することは少なく、多くは三角巾固定などを行いつつ保存的に治癒を促します。
投球動作を禁止するのはもちろんのこと、腕立て伏せなどの上肢トレーニングや体育の授業も内容によって禁止しますが、軽いジョギングなどは可能です。なお、投球禁止期間は全身に対するリハビリテーションを行っていきます。
上腕骨頚部の圧痛(図1)と抵抗下の運動痛が消失したら投球を再開します。
通常、1~2ヶ月程度で投球再開が可能となります。ただしⅢ型については投球再開を急ぐと骨頭すべりが悪化することがあるため慎重な対応が求められます。
骨端線損傷のメカニズム
骨端線は、骨全体で力学的に最も弱い部分です。長軸方向へのけん引力(ひっぱりの力)に対しては強いですが、せん断力(ずれる力)に対してはきわめて弱い、という特徴を持っています。
投球動作においては、コッキング期~フォロースルー期にかけて、肩関節の外旋や内旋といった回旋動作の急激な変換を強いられますが(図3)、その際、上腕骨近位骨端線の近くに付着しているインナーマッスルとアウターマッスルの作用によって骨端線に過度なせん断力が加わります。そのような力が繰り返されることにより骨端線付近の損傷が生じると考えられます(図4)。
図3
図4
とくに股関節や体幹、胸郭、肩関節周囲の柔軟性低下や筋力低下、肩甲骨の機能不全などがあると、投球時の「肘下がり」が起こり、よりストレスや疲労が増大します。
いったん痛みを生じると、特徴的な不良姿勢、筋力低下、可動域制限が新たに発生します。この状態での投球はさらに骨端線への負担を増大させるといった悪循環が生じます(図5)。
図5
リトルリーガーズショルダー(リトルリーグ肩)のリハビリテーション
リハビリテーションは、野球復帰・再発の防止を目的として行います。
投球禁止の期間には、投球動作に影響を与える身体的問題点、たとえば下半身や体幹の硬さ、筋力、バランス能力などをチェックし、ストレッチや機能訓練を行っていきます。
通常、1ヶ月ほどの投球制限と機能訓練にて投球を再開します。
コンディショニングを行いながら投球レベルを上げていき2~3ヶ月で完全復帰を目標とします。
リトルリーグ肩に有効なセルフストレッチ
上腕三頭筋
三角筋
肩後方のストレッチ
広背筋、大円筋
股関節内旋
大腿四頭筋
梨状筋
リトルリーグショルダーのリハビリとしての筋力強化・機能訓練
下半身強化
ランジ+体幹側屈
ランジ+体幹屈曲・回旋
スローイングランジ(前の肩が早く開かないようにステップ)
後ろに手を組んで投球フォームチェック(下半身主導)
ブリッジ+斜め上方へリーチ
インナーマッスル強化訓練(3種)
内旋筋
外旋筋
外転筋(棘上筋)
投球フォームのセルフチェック
投球動作では、肩のラインと上腕のラインがほぼ一直線になるような姿勢、いわゆる「ゼロポジション」に近い位置でボールリリースをすることが理想と言われています。ですから、この位置でボールをリリース出来ているかをスマホやビデオで録画して、自身でチェックしてみるのも有効です。
リトルリーガーズショルダー(上腕骨近位骨端線離開)の治療期間・リハビリ・ストレッチ・トレーニングのまとめ
リトルリーガーズショルダーは、野球肘と呼ばれる上腕骨小頭障害に比べて比較的短い治療期間で野球に復帰が可能なことから、それほど重篤な障害として認識されてはいません。しかしながら、上腕骨近位骨端線が損傷されることによって多くの場合は上腕骨の変形治癒が起き、将来的な肩肘障害につながる危険性もあります。
「肩が痛いな、おかしいな?」と思ったら、ガマンせず専門病院を受診するようにしてください。
参考文献
- 三幡輝久:リトルリーガーズショルダー-発育期での問題点.臨床スポーツ医学 2021
- 梶田幸宏ら:成長期の野球選手における肩関節障害. 関節外科 2020
- 島村安則ら:小児期の運動器障害-上肢障害・外傷-.Jpn J Rehabil Med 2018
- 林典雄ら:整形外科運動療法ナビゲーション 上肢.メジカルビュー社 2008
- 柚木脩ら:成長期野球選手における肩のスポーツ傷害の治療戦略.関節外科 2008
- 井手淳二:成長期の投球肩の診断と治療. 骨・関節・靭帯 2006
- 河合伸昭:肩スポーツ障害の治療と予防. 臨床スポーツ医学 2015
- 二宮祐樹:肩のスポーツ障害. 小児内科 2009
- 三原研一:少年野球による上肢障害. Journal of clinical rehabilitation 2006
- 瓜田淳:成長期の上肢スポーツ外傷・障害-部位別の特徴および種目関連性について-. MB Med Reha 2018