【はじめに】
今回は、某高等学校野球部のトレーナーをしている理学療法士から試合前後の食事について発信していきたいと思います。試合前後の食事は、とても大切な分野であります。しかしながら、試合前に食事を抜いたなどの声は選手からよく聞きます。試合で熱中症になったり、思うようなパフォーマンスを発揮できなかった選手に限って、食事が疎かになっていることが多いです。今回の記事で、選手や保護者で食事の見直しができるきっかけになってほしいと願います。
【アスリート食の原則】
①自身の体質や体調を把握し、何が必要かわかるように心がける
②バランスの取れた食事を摂る
食材からしっかり栄養素を摂る(サプリメントに頼りすぎない)
③朝食をしっかり食べる(ホルモンリズムが整う、身体や脳にスイッチが入る)
④睡眠を十分にとる(肝臓の疲れが減り、体内での栄養素利用率もアップする)
【アスリートはバランスの良い食事だけでは栄養素が不足することもある】
❶エネルギーや栄養素の必要量が多くなっても、食べられる量には限界がある
→主なエネルギー源となる、炭水化物・タンパク質・脂質を優先的に摂取する。栄養素の不足分を、ビタミンやミネラルで補う。食事で補えない場合のみ、サプリメントを使用。
❷運動中は効率よく消化、吸収できない
❸運動時間が長くなると消化、吸収を効率よく行う時間が短くなる
❹試合前や試合中は緊張や興奮が加わり、さらに消化、吸収が抑制される
【試合前の食事をするポイント】
⑴糖質を多めに摂取する、カーボローディングを行う。
カーボローディングとは、運動エネルギーとなるグリコーゲンを通常よりも多く摂取することで、体内に多く貯蔵させる栄養摂取法のことを指す。
運動時のグリコーゲンの不足はパフォーマンス低下を招くことがある。特に持久力競技では、運動する際は筋肉と肝臓にグリコーゲン(急激な運動をする際に必要なエネルギー源の事。多糖類とも言う)が多く蓄えられていたほうが良いため、試合前に糖質を多く含む食品を摂取し、グリコーゲンを貯蔵できるようにすることが大事である。
図1
約1週間前より、運動量と食事内容の調整が必要である。
運動量を減らすことで、グリコーゲンの消費量を抑え、糖質を含むバランスの良い食事をする。また、3日前からは「高糖質、低脂質、高タンパク質」の食事を摂りグリコーゲンを体内に蓄える。
※高糖質とは、1日の総エネルギー摂取量の70%以上を糖質にし、脂質を15%以下、タンパク質を15%以上にすると良いとされる。
具体例は、白米の量を1.2倍に増やすことや芋料理を増やしたり、パンなどに蜂蜜を塗る。また、おやつで和菓子を食べることなどが挙げられる。
カーボローディングで、筋中、肝臓内のグリコーゲン量を2.3倍に増やすことができるが、運動量を減らすことを行わなければ、より良い効果が見込めないとされている。
主に糖質を多く含む食事、食材は図2に記載してあります。
図2
また、カーボローディングを行うことで体重が増加する事もある。増加量とパフォーマンスの維持に関しては個人差があるため、練習試合などで試してみることも必要である。
(グリコーゲン1gには約3gの水分が結合する。例)約300gのグリコーゲンに、水分が約900g結合し、約1200g体重が増加する。)
⑵消化にかかる脂質は控えめにする
試合前の緊張や興奮状態にあると、胃の殺菌能力が低下したり、普段通りの消化が行われないこともある。
⑶乳製品や食物繊維が多く含む食品を控える
乳製品や食物繊維は腸内でガスを発生させやすいため、普段より多めの水分補給を心がけると良いとされている。
⑷生モノは避け、日頃食べ慣れているものを食べる
食中毒や腹痛の原因になりかねない。
【まとめ】
・食事のタイミングや種類を考えながら摂取を行うと効率が良い。
・試合前は特に、糖質の貯蓄をを行う必要(カーボローディング)がある。
・疲労回復は、糖質とタンパク質(アミノ酸)、クエン酸を一緒に摂取すると効率が良い。
今回は、主に試合前の食事について記載しましたが、この後試合当日の食事や疲労回復に必要な食事なども発信していきたいと思います。
【参考文献】
ACCA スポーツ栄養スペシャリスト テキスト
寺田新 東京大学出版会 スポーツ栄養学 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる