【はじめに】
今回は、投球動作に必要と言われている、前鋸筋について紹介していきたいと思います。
【前鋸筋とは】
前鋸筋とは、胸郭の外側に位置する筋肉です。肩甲骨を安定させ、腕を前方に押し出す動作や、肩を持ち上げる動作に関与します。また、深呼吸の際には肋骨を持ち上げる役割も果たします。筋肉の付着は、以下の部位になっています。
起始部:前鋸筋は上部肋骨の外側面(主に1~8番目の肋骨)から起始します。
停止部:肩甲骨の内側縁(特に肩甲骨の前面)に停止します。
図1 前鋸筋
【主な機能】
①肩甲骨の前方回転(protraction)や上方回旋(upward rotation)に関与します。
②腕を前方や上方に挙げる動作を助けます。
③肋骨を持ち上げることで呼吸を補助します。
【投球動作においての役割】
①インナーマッスルを十分に機能させるために、肩甲骨を安定させる必要があります。
②レイトコッキング(ステップ足の着地~最大外旋まで)で高い筋活動をします。
図2 レイトコッキング
③アクセラレーションからボールリリースでボールを前方に押し出す役割があります。
図3 アクセラレーション~ボールリリース
【前鋸筋の筋出力チェック】
・EPT(elbow push test)
『方法』
患者様に深めの座位になってもらい、両上肢を図4 のように胸の前で組みます。
チェックする人が、患者様の肘に手を当てお互い矢印のように押し合います。
この際、抵抗に対して力が抜けるような感じになれば陽性(異常あり)と言えます。
『注意点』
肘で押す際に、体幹が前方に倒れないようにしてください。
図4 EPT(elbow push test)動画あり
・上肢挙上位での出力テスト
『方法』
患者様に座位の状態で、片方の上肢を挙上してもらいます。チェックする人が、手首に手を当て矢印のようにお互い力を入れます。抵抗に対して、力が抜けるような感じがあると陽性(異常あり)とします。
『注意点』
力を入れた際に、肘が曲がったりしないようにしてください。
図5 上肢挙上テスト
【前鋸筋のトレーニング】
①前鋸筋プッシュアップ
『方法』
図6の左下のように、開始姿勢は腕立て伏せのような姿勢で行います。
開始姿勢から、お尻を天井方向へ上げ、両手掌で地面を矢印方向へ押します。10秒くらい押したら、開始姿勢に戻し数十回繰り返し続けます。
『注意点』
お尻を上げた際に腰部が反るような動作にならないようにしてください。
ハムストリングスなどの、下肢後面の筋肉が硬い人は図6のような姿勢は取れないと思いますので下肢のストレッチから始めるようにしてください。
図6 前鋸筋プッシュアップトレーニング 動画あり
②ボール押し込みエクササイズ
『方法』
右投手の場合:図3のような、アクセラレーション~ボールリリースのフォームを作ります。ボールを壁に当て、右上肢で押します。左手を引き、右手を前方へ押しやすいような環境を作るようにします。
『注意点』
図5と同様に、肘が曲がらないように注意してください。
図7 ボール押し込みエクササイズ(側面)
図8 ボール押し込みエクササイズ(正面)
【まとめ】
・前鋸筋を含む肩甲骨周囲の筋肉は、肩甲骨を安定させる機能があり、投球動作において必要です。
・肩甲骨が不安定になると、インナーマッスルの出力が低下したり、肩関節痛や肘関節痛につながる恐れがあります。
・大学野球部の新入生を対象としたメディカルチェックにおいて、投球障害肩・肘を有する選手の身体機能を比較検討したところ、肩痛あり群は肩痛なし群と比較して、EPT(Elbow Push Test)の陽性者が有意に多かったとの報告がある。文献2)
【参考文献・引用文献】
1)高村隆:投球障害の運動療法.臨床スポーツ医学臨時増刊号 野球の医学,2015
2)安本慎也, 他.:大学野球選手に対するメディカルチェック―身体機能と肩肘の痛みとの関連―
日本整形外科スポーツ医学会雑誌, 2022
3)橘内基純,他:投球動作における肩甲骨周囲筋群の筋活動特性.スポーツ科学研究,2011
4)新版 スポーツ外傷・障害の理学診断理学療法ガイド 臨床スポーツ医学編集委員会
【動画説明】
図9 図4の詳細動画
図10 図6の詳細動画