野球に必要な大胸筋 〜胸郭の柔軟性と胸筋群の出力〜

【はじめに】

今回は、大胸筋のストレッチング、トレーニングについて紹介していきたいと思います。大胸筋に関しては、上半身の大きな筋肉なので単体で使用するというよりは、6月号・7月号・8月号で紹介しました肩のインナーマッスルと共同で働くのが必要になってきます。

【大胸筋の付着部】

大胸筋は、繊維が3つあり、上部・中部・下部に分かれます。

 

図1 大胸筋の3線維

主な作用:腕を内側に引き寄せる動作や上腕を前方に持ち上げる動作、深い呼吸を補助する役割があり、吸気の際に胸郭を拡げるのに寄与します。

【投球動作での大胸筋の役割】

・アウターマッスルである大胸筋はインナーマッスルと共同して肩関節の安定性を高めます。

・投球時(レイトコッキング~フォロースルー期)に腕を前方へ押し出す動作で活発に働きます。

・スローイング時の回旋動作において胸部の回旋を助けます。

図2 レイトコッキング~フォロースルー期

図2-①から、右腕を引くことで大胸筋が引き伸ばされ胸郭が張ります。

この時に大胸筋の制動がないと肩関節の前方を痛めることもあります。

図2-②でストレッチングされた大胸筋を収縮させます。(胸郭を閉じる)

③以降で、胸郭(体幹)の回旋を行い、肩関節・上腕・肘関節・前腕・手指と力の伝達を行い投球動作を完成させます。

【大胸筋チェック】

・柔軟性

トランクローテーション(右肩上の説明)

『方法』

図3のように、右肩上の横向きになり両股関節を90度曲げ膝を軽く曲げます。右手を後頭部に当て背中の方向へ胸郭を開きます。

右肩甲骨と地面(ベッド)の距離(図3 -③:黄色の線)で柔軟性低下を判断します。

『注意点』

肘と地面を接地させようとすると肩痛につながる恐れもあります。

肩甲骨と地面を接地させるように行います。

図3 トランクローテーション

 

【ストレッチング・エクササイズ・トレーニング】

トランクローテーションエクササイズ

『方法』

図4-①のように、四つ這いの姿勢を作り片方の手を後頭部に当てます。(図4では右手)

図4-②にように、後頭部に当てた手の方向へ回旋します。図4-③のように、対角線上に回旋させます。(左足方向へ)

 

図4 トランクローテーションエクササイズ(正面)

図5 トランクローテーションエクササイズ(側面)

片膝立ちトランクローテーション

『方法』

図6にように、非投球側(グローブの手)の足を前方へ位置させ投球側の膝を地面につけて片膝立ちになります。投球側の手を後頭部に当て、両肩の延長線上、または延長線より上方へ肘を位置させます。

図6-①を開始姿勢とし、②で投球側に回旋させます。

『注意点』

・肘の位置が両肩の延長線上より低くならない様にします。

・非投球側の膝が、②の様に回旋した際に、内側に倒れない様にします

図6 片膝立ちトランクローテーション

プッシュアップ

『方法』

図6-①から②の様に、下方向へ上体を下げます。この際に大胸筋のストレッチと両肩甲骨が内側に寄っている感覚があればいいと思います。②の様に、上体を下に下げた状態から、地面を押すように上体をあげます。①から②はゆっくり下ろして、②から①にあげる際には、早くあげることを意識することが大事になります。

腕立て伏せでもいいですが、大胸筋のストレッチングから収縮を行いたいので、プッシュアップバーを用いることをお勧めします。また、肩関節に不安(脱臼歴や肩痛)がある選手は、腕立て伏せかつ両手の範囲を狭くするといいと思います。

図7 プッシュアップ

大文字エクササイズ

『方法』

腕立て伏せの姿勢を作り、両手が肩関節より上方に位置(赤線)するように開始します。

この姿勢から動作しないで、30秒キープ(水色線)します。

図8 大文字エクササイズ

【まとめ】

・大胸筋は、体幹筋の中でも大きな筋肉で柔軟性・筋出力ともに必要な筋肉です。

・アウターマッスルとインナーマッスルのバランスも重要です。

【参考文献・引用文献】

1)編著 森原徹ら 優投生塾 投球障害攻略マスターガイド 全日本病院出版会

2)編集 菅谷ら 新版 野球の医学 文光堂