ハムストリングスを柔らかく!トレーニング&ストレッチで野球ケガ予防

ハムストリングスを柔らかく!トレーニング&ストレッチで野球ケガ予防

野球の動きの中で、ハムストリングス(太ももの裏側にある筋肉群)は、非常に重要な役割を果たしています(図1)。

この筋肉は、投球や守備、走塁、スイング時の安定性や力強さを支えるだけでなく、怪我予防の観点からも注目されています。この記事では、ハムストリングスの役割やトレーニング、ストレッチ方法について解説します。

図1

ハムストリングスの役割と野球における重要性

野球の動作の中で、ハムストリングスは特に以下の場面で大きな役割を果たします。

  • スプリント動作:ベースランニングや守備の時に、地面を蹴って前方への推進力を生み出し、スピードを向上させるために必要です。
  • 加速・減速動作:盗塁や守備時のダッシュからブレーキ動作まで、一連の動作をスムーズに行うために不可欠です。
  • 力強いスイングと投球:骨盤や股関節の安定性を保つことで、パワーを上半身に効果的に伝達します。
  • 怪我の予防:ハムストリングスの強さと柔軟性が不十分な場合、肉離れや他のスポーツ障害のリスクが高まります。

怪我予防のための効果的なエクササイズ

ノルディックハムストリングス(図2

ノルディックハムストリングスは、パートナーや固定器具を使い、膝立ちの状態から体をゆっくり前に倒し、ハムストリングスの力で制御しながら降ろしていくエクササイズです。

ハムストリングスの肉離れ予防に非常に効果的とされています。筋力を高めるだけでなく、肉離れを起こしてしまった選手が、治療やリハビリによって競技やトレーニングに参加できない期間を短縮でき、長期的な離脱が回避できます。

このエクササイズは、筋肉を伸張させながら鍛えることができるため、怪我予防に最適です。

(図2
出典:今井覚志ら(2018)

シングルレッグルーマニアンデッドリフト(図3)

シングルレッグルーマニアンデッドリフトは、片脚で立ち、もう一方の脚を後方に伸ばしながら上体を前に倒すエクササイズです。

ハムストリングスの筋力と柔軟性を向上させます。ノルディックハムストリングスエクササイズと比べて導入しやすく、怪我予防のためのウォーミングアップエクササイズとしても適しています。

(図3)
出典:今井覚志ら(2018

ハムストリングスの柔軟性を高めるストレッチ

柔軟性は、パフォーマンス向上と怪我予防に欠かせない要素です。以下はおすすめのストレッチ方法です。

ジャックナイフストレッチ(図4)

ジャックナイフストレッチは、しゃがんだ状態で足首を握り、胸と大腿をジャックナイフのようにくっつけた状態で膝を徐々に伸ばすストレッチです。

ハムストリングス遠位部(膝に近い部分)の柔軟性を改善する効果があります。静的ストレッチと比較して、より効果的に柔軟性を向上させる可能性があることが示されています。また、このストレッチは即時的に骨盤の可動域を増加させ、パフォーマンス向上につながります。

(図4)
出典:長谷部清貴ら(2012)

エアーデッドリフト

通常のデッドリフトは、図5のように足を肩幅に開き、バーやダンベルを地面から持ち上げる動作で行いますが、エアーデッドリフトは、デッドリフトの動作を、重りを持たず体重だけで行うエクササイズです。

短時間でハムストリングスの柔軟性を高める手法として有効です。軽い動作で30回程度繰り返すことで、30秒間の静的ストレッチと同程度の柔軟性向上が得られることが報告されています(神長涼ら2019)。

(図5)
出典:今井覚志ら(2018)

動的ストレッチ

動的ストレッチはウォーミングアップ時に特に有効で、即時的に筋肉の柔軟性を高めるだけでなく、運動パフォーマンスを向上させる効果もあります。野球の動きに合わせた動的ストレッチを取り入れることで、試合や練習でのパフォーマンスを最大化できます。

ウォーミングアップの工夫:全力疾走刺激(スピードリハーサル)

全力疾走刺激(スピードリハーサル)は、野球のプレー中に行う全力疾走と同じような運動刺激をウォーミングアップに取り入れる方法です。この手法を実施すると、神経系と筋肉系の協調性を高める効果があり、スプリントやアジリティパフォーマンスが向上することが報告されています。試合前のウォーミングアップで、スピードリハーサルとしての全力ダッシュを一本でもいいので取り入れてみてください。

【まとめ】ハムストリングスを柔らかく!トレーニング&ストレッチで野球ケガ予防

ハムストリングスは、野球選手にとって「走る」「投げる」「打つ」など、あらゆる動作の基盤を支える重要な筋肉です。正しいトレーニングとストレッチを取り入れることで、パフォーマンスの向上や怪我予防につなげることができます。小中学生の時期からこれらを実践することで、将来の競技人生に大きなプラスとなるでしょう。

【参考文献】

  • 今井覚志ら/ハムストリングスの筋力トレーニング/臨床スポーツ医学・2018
  • 秋吉直樹/ノルディックハムストリングスエクササイズはハムストリングス肉離れの離脱日数を減少させる/日本臨床スポーツ医学会誌・2022
  • 大谷遼/陸上競技選手に対するハムストリングス筋損傷予防を目的としたSingle Leg Romanian Deadliftの介入効果/日本臨床スポーツ医学会誌・2023
  • 長谷部清貴ら/スポーツ選手に対するストレッチ法-ジャックナイフストレッチを中心に-/臨床スポーツ医学・2012
  • 工藤枝里子ら/Jack-Knife stretchはハムストリングス遠位の柔軟性改善に貢献する/理学療法学・2019
  • 神長涼ら/エアーデッドリフトがハムストリングスの柔軟性改善に及ぼす効果/日本臨床スポーツ医学会誌・2019
  • 下薗聖真ら/ウォーミングアップにおけるSpeed Rehearsalの有無が運動パフォーマンスに及ぼす影響/臨床スポーツ医学・2019
  • 成田崇矢/ストレッチ/MB ENT2020