
肩後方タイトネスとは
野球の投球動作を繰り返すことで、肩の後ろ側(後方)の筋肉や関節包(図1、2)が硬くなることを「肩後方タイトネス」といいます。この状態になると、肩の可動域が狭くなり、特に内旋(腕を身体の内側に回す動き)が制限されることがあります。
肩後方タイトネスは、小学生のころからすでに発生することが報告されており、成長とともに進行する可能性があります。特に投球動作を繰り返す選手では、後方の筋肉や関節包の柔軟性が低下しやすく、その結果、肩の前方に負担がかかることで肩の障害が引き起こされることがあります。
図1
図2
後方タイトネスが生じると?
肩後方タイトネスが起こると、以下のような影響が出る可能性があります。
- 投球動作に影響:ボールを投げる際、腕の振りがスムーズにできなくなることがあります。
- 肩や肘の痛み:肩の動きが悪くなることで、肘や肩に余計な負担がかかり、痛みやケガの原因になります。
- コントロールの低下:スムーズな投球フォームが崩れ、球速やコントロールに悪影響を及ぼすこともあります。
- インピンジメントのリスク:肩後方の柔軟性が低下すると、肩の前方部分の負担が増し、「前上方インピンジメント(腱板が上腕骨頭と関節窩縁に挟まれる状態・ASI)」が発生しやすくなります(図3)。
図3 前上方インピンジメント(ASI)
(出典:Habermeyer (2004))
「後方タイトネス」をチェックする方法
肩関節の内旋可動域減少(GIRD)をチェック(図4)
投球側の肩関節の内旋(腕を内側に回す動き)が制限される状態を指します。
投球側と非投球側の肩の内旋角度を比較します。
- 仰向けになり、肩を90度外転(横に上げて肘を曲げる)
- 腕を内側に倒す(内旋)
- 左右で角度の差をチェック
図4
投球側の内旋角度が非投球側よりも20°以上少ない場合、GIRDの可能性が高いです。GIRDがあると、肩・肘に障害を生じる原因となると言われています。
CAT(複合外転テスト)(図5)
- 肩甲骨が動かないように固定した状態で、腕を横から上げる。
- 上腕が反対側より上がらない場合は、後方タイトネスがある可能性が高い(異常あり)。
図5
HFT(水平屈曲テスト)(図6)
- 肩甲骨を押さえた状態で、腕を前方に持ってくる。
- 反対側の床に手がつかない場合、後方タイトネスの可能性がある(異常あり)。
図6
これらのテストは、特に野球選手の肩の可動域を評価するために有用であり、プロ野球選手のメディカルチェックにも活用されています。
「肩関節後方タイトネス」に対するストレッチ
肩後方タイトネスを予防・改善するためには、以下のストレッチが効果的です(右肩のストレッチの例で説明)。
スリーパーストレッチ(棘下筋、小円筋)(図7)
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- 右向きに寝て、右腕を90度に上げて肘を曲げる。
- 左手で右手首を押し、ゆっくり内旋させる。
- 15~30秒行う。
図7
座位で位で肩内旋ストレッチ(図8)
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- 右膝を立て、その上に右肘を90度に曲げて置く。
- 左手でゆっくりと内旋させ、ストレッチを感じるところでキープ。
- 15~30秒行う。
図8
クロスボディストレッチ(三角筋)(図9)
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- 右腕を左肩に向かって引き寄せる。
- 左手で腕を軽く押さえ、ストレッチを感じるところでキープ。
- 15~30秒行う。
図9
広背筋ストレッチ ① (図10)
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- 両手を組んで腕を上げ、体幹を左に倒す。
- 15~30秒行う。
図10
広背筋ストレッチ ② (図11)
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- 四つ這いの状態で右手を左手で押さえ固定する。
- お尻を斜め後ろに突き出す。
- 15~30秒行う。
図11
中学野球選手の研究では、約38%の選手が肩後方タイトネスを有していました。
また、後方タイトネスとインピンジメントを合併すると肩痛がより強くなることが報告されています(原田ら2018)。これらのストレッチを習慣化することで、肩後方タイトネスを予防し、ケガを防ぐことができます。毎日の練習後や投球前後に取り入れてみましょう!
【参考文献】
- Habermeyer P, et al. / Anterosuperior impingement of the shoulder as a results of puller lesion. / J Shoulder and Elbow Surg. ・2004
- 田鹿佑太朗ら/pulley lesionにより投球障害を生じた一例/肩関節・2015
- 杉本勝正ら/投球障害肩における前上方インピンジメント(anterosuperior impingement)の病態/肩関節・2011
- 竹内聡志ら/原テストにおけるCAT・HFTと肩関節可動域の関係/肩関節・2016
- 土屋篤志ら/投球側の違いによる野球選手の肩関節回旋可動域の特徴/肩関節・2017
- 美松泰ら/CAT・HFTと肩後方筋群の筋厚・弾性率の関係/肩関節・2018
- 福西邦素ら/原テストは投球障害肩の評価に有用である/肩関節・2017
- 原田幹生ら/中学野球選手における肩関節内インピンジメントについての検討/肩関節・2018