【はじめに】
今回は、投球動作や打撃動作で起こりうる肋骨疲労骨折について発信していきたいと思います。
【肋骨疲労骨折とは】
肋骨疲労骨折は、全疲労骨折の約3%であり、稀な骨折となります。野球などのオーバーヘッドスポーツでは、12対の肋骨がある中で第一肋骨の疲労骨折が多いとされています。(図1)※3)のp 433より編集して引用。
【症状】
初期症状として、深呼吸時に(特に吸うとき)痛みを伴ったり、肩周囲の違和感が出現する事もあります。痛みは、肩甲骨内側と肩関節の後ろに出現する事があります。(第一肋骨周囲を通る神経の障害で背中に痛みが出ることがあります)
(図2)※3)をもとに作成
《主な部位》
【受傷機転】
打撃動作では、投手側の頚部・肩甲骨周辺に、投球動作では、投球側の頚部・肩甲骨周辺に症状が出現します。(図3)
【原因】
下肢柔軟性低下、体幹(胸郭)の回旋可動域低下を認める事が多いです。
以上の所見が見られると、肩甲骨周囲が過剰に働くことによって投球動作や打撃動作の破綻が生じて前述の症状が出現してしまいます。
【チェック項目】
チェック項目は他にもありますが、今回は抜粋して紹介したいと思います。
①下肢柔軟性低下(股関節内旋) (図4)
②体幹(側腹部:わき腹・横腹) (図5)
③体幹回旋(胸郭・胸椎) (図6)
①、②、③の左右差や硬さが見られるようであれば、ストレッチなどをお勧めします。
【予防エクササイズ】
A.下肢ストレッチ(お尻) (図7)
①のチェック項目で硬さがあれば行います。片方ではなく両方の足を行います。
B.下肢ダイナミックストレッチ(内旋運動) (図8)
①のチェック項目で硬さが見られたら行います。基本的にAでストレッチを行った上でこのダイナミック内旋運動を行なった方が良いと思います。
C.体幹回旋運動(胸椎・胸郭) (図9)
チェック項目の②、③で硬さが見られたら行うと良いです。おしり周辺の筋肉が硬いとわき腹が伸びづらいのでおしりのストレッチを行なってから実施すると良いです。
D.胸郭・胸椎エクササイズ(dog&cat) (図10)
チェック項目の③で硬さや動きづらさが見られたら行うようにすると良いです。
E.側腹部のストレッチ (図11)
チェック項目の②で動きが悪いと行うようにすると良いです。
このようなエクササイズは沢山ある中の一部ですが、野球を行う上で全て必要な動きなので常に行えると良いと思います。
また、野球選手は特に胸郭の可動域が必須になってきます。体幹のストレッチを胸郭の可動性運動につなげてもいいかもしれません。
【予後・予測】
通常、ノースロー期間を設けながら、2~4週間で肩甲骨周囲の痛みが軽減してきます。(リハビリテーションを行った上で)
医師と理学療法士や作業療法士などのリハスタッフと相談しながら、骨癒合が確認できてきたら徐々にアスレチックリハビリテーション(実際に投球動作への介入が必要な場合があります)を行なっていきます。
※1)生田らは3~8週の安静で症状が消失し骨癒合が得られたとの報告があります。
・投球動作の負荷設定
シャドー⇨ネットスロー⇨キャッチボール(塁間半分)⇨キャッチボール(塁間)
※キャッチボール以降は60%⇨80%⇨100%で負荷設定を行う。
・打撃動作の負荷設定
素振り⇨トスバッティング⇨フリーバッティング
一度に多く振らないよう注意する。
【まとめ】
・背部痛の主訴は、第一肋骨疲労骨折が起きている可能性がある。
・第一肋骨疲労骨折は、見落としやすい病態である。
・体幹や下肢の柔軟性低下が起因となり起こる可能性がある。
また野球の動作は打撃動作も投球動作も全身の運動連鎖で成り立っているため仮に体幹の動きが阻害された際に肩甲骨や頸部(第一肋骨など)に負担を受けてしまう恐れがあるので、下肢や体幹のストレッチは行うことが重要です。
時間が経過しても、症状の変化がない選手は、近医で診察を受けてもいいかもしれませんね。
【参考文献・引用文献】
1)生田光徳・他:ス ポーツによる肋骨疲労骨折.臨 スポ ー ツ 医6:438-441 ,1989.
2)菅谷ら 新版 野球の医学 脇腹痛-肋骨疲労骨折、筋損傷の病態-p247-p249 文光堂
3)編集:岩本航(江戸川病院スポーツ医学科部長)整形外科医のための肩のスポーツ診療のすべて 2021.2.20