スポーツ外傷(挫傷)に対するファーストエイド

【はじめに】

 練習や試合中に仲間が倒れた・怪我した際に、あなたはファーストエイドができますか?ファーストエイドとは、救急対応のことを言います。いざという時に勇気ある一歩を踏み出して最善のファーストエイドができるかどうかが、生死を大きく左右し、また選手生命や早期競技復帰に大きく影響します。今回は、スポーツ外傷(挫傷)に対するファーストエイドに着目していきます。

【スポーツ外傷の分類】

 外傷は皮膚からの出血を伴うケガ(創傷)と皮膚からの出血を伴わないケガ(挫傷)に分けられます。創傷には、すり傷やきり傷などがあります。挫傷には捻挫、打撲、肉離れ、骨折などがあります。挫傷直後は目立った腫れなどがなくても、時間が経つと少しずつ腫れや痛みが増してくるケガのため、速やかなファーストエイドがその後の競技復帰に大きく影響してきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

図1

【挫傷時のファーストエイド】

 スポーツ外傷が起きた時のファーストエイドとして求められる処置は「RICE処置」です。RICEは「Rest」(安静)、「Ice」(冷却)、「Compression」(圧迫)、「Elevation」(挙上)の頭文字をとったものです。(図2)
図2
 外傷が起きた時に動いてしまうと、ケガをした部位やその周辺の症状が悪化してしまうので「安静」にします。「冷却」は氷などで痛めた部位を10分から20分程度冷やすことで、痛みや腫れを抑え、二次的障害(ケガした周辺へのダメージ)を予防するのが狙いです。「圧迫」はケガをした時の腫れを抑制します。「挙上」はケガした部位を心臓より高い位置にすることで、ゲガをした部位への痛みや腫れを軽減させます。これらを合わせてRICE処置と呼び、外傷が起きた際はこの4つを可能な限り実地します。どれかできないもの(例え:圧迫)があれば、それ(圧迫)以外のものを行います。


【現場でおこなわれる2つのアイシング】

 外傷が起きた時にRICE処置でアイシングをすると言いましたが、投球後に肩・肘へ実施するアイシングもRICE処置なのかというと、少し性質が異なります。投球後の肩・肘は投球の繰り返しで熱感の出現や、筋肉へのオーバーワークによって機能が低下した状態になっています。これらの症状を抑えるために5〜10アイシングを実施します。外傷時のRICE処置によるアイシングと投球後のコンディショニングとしてのアイシングでは、目的も実施方法も異なるため「=ではない」と理解することが必要です。
図3


【スポーツ外傷に対するファーストエイド】

 改めて、スポーツ外傷(挫傷)に対するファーストエイドとしてのRICE処置を具体的に紹介していきます。まず、ケガをした本人の痛めた部位の観察をし、ファーストエイドをする場所が決まったら、その部位に対してRICE処置を10〜20分実施します。その後、アイシングを外し、安静・圧迫・挙上を計40分程実施します。強い痛み、熱感、腫脹が残存している場合には、再びアイシングをおこない、2回目のRICE処置を実施します。その後、医療機関の診察を促します。

 ケガをした際の炎症症状(痛み・熱感・発赤・腫れ)は、2472時間続くとの報告もありますが、ケガの状態や個人によってその症状には差があります。1回目のRICE処置が終わって、一度ケガの状態を確認した上で、RICE処置を継続するか、冷却の継続を止めるか判断します。

 

 

 

 

 

 

 

 

図4

 

【肩・肘へのコンディショニングとしてのアイシング】

 コンディショニングとしてのアイシングは投球動作の繰り返しよって肩・肘周囲筋に生じた筋けいれんのような疲れや張りを感じている際に、症状を抑えることを目的に510程度行います。
図5

 肩・肘に痛みや違和感のある時は、アイシングを繰り返すのではなく、レントゲンや超音波検査を受けられる医療機関を受診しましょう。投球後に肩・肘への炎症症状がない選手には、アイシングよりも繰り返しの動作によって生じた疲れを除去するような軽運動やストレッチなどが適しています。

 したがって、投球後のコンディショニングとしてアイシングを実施する際には、まず、RICE処置のアイシングとは異なることを理解した上で、実施するようにしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

図6

【まとめ】

 スポーツ外傷の中でも挫傷に対するファーストエイドについて紹介しました。スポーツをするにあたってケガは付きものだと思います。予防ももちろん大切ですが、ケガが起こった後の対処も今後の選手生命にとても関わってくる大切なことです。受傷直後に現場でできるRICE処置を実施してください。

【参考文献・引用】

著者:笠原政志 医学監修:富田一誠 絶対に知っておきたい野球現場のファーストエイド