【病気の説明】
肩関節は、上腕骨のボールと肩甲骨の受け皿でできていますが、その周りは複数の筋肉に囲まれています。筋肉と骨は腱(けん)によって繋がっており、その腱が板状に見えることから腱板と呼ばれています。肩において、腱板とは棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つのことを言います。(図1)
この腱板が加齢に伴ってもろくなり、切れてしまうのが腱板断裂と呼ばれています(図2)。腱板断裂にも完全に切れてしまう完全断裂と一部が損傷してしまう不全断裂に分けることができます。
腱板断裂になると、一般的な「肩が痛い」「肩が上がらない」という症状が出てきます。腱板断裂は60代以上の2人に1人が存在するという報告もありますが、多くの場合はゆっくりと症状が進行するため、痛みを感じていないと考えられています。
腱板断裂の治療には手術療法と保存療法に分けることができます。その保存療法について少し解説したいと思います。
【保存療法とは】
腱板断裂に対する保存療法には注射や飲み薬、リハビリ等を組み合わせることになります。一度、切れてしまった腱板は自然治癒しますか?という質問を多く受けることがありますが、完全にくっつくということは難しく、逆に時間とともに断裂部位が大きくなる可能性もあります。そのため、リハビリでは腱板断裂の部位を修復するための治療ではなく、腱板への負担をなるべく軽減させるような、ストレッチやリラクゼーション、筋力トレーニングを実施します。次に当院では実際にどのようなリハビリが行なわれているのか解説したいと思います。
【腱板断裂に対するリハビリテーション】
当院では、まず痛みが強すぎて肩が動かせない場合、積極的な運動は行いません。腱板断裂のリハビリを行うにあたっては、以下の3段階の時期に分けることができると考えています。
- 安静時に痛みがある時期
→この時期は、肩の中の筋肉やその他の組織が赤く腫れ上がり炎症状態にあります。その為、注射や投薬で痛みのコントロールを行い、リハビリでは痛い部位以外のリラクゼーション、痛みをコントロールするための日常生活の指導等を行います(図3)。
指導例)①肩の高さを調整する
②痛い方の肩を上にして、横向きで寝る
!ポイント:この時期ではとにかく痛みのコントロールに徹します。
- 動かした時に痛みが出る時期
→この時期は「全体的に痛い」や「前や横、後ろが痛い」と痛い肩の部位が多用化してきます。動かす時に痛い原因の一つとして姿勢の悪さも挙げられます。その為、肩だけでなく全身を見ながら姿勢調整を行い、肩の痛みが出ないように下の図4のような肩甲骨の運動や関節可動域訓練等を実施していきます。(図4)
!ポイント:この時期では姿勢調整を行い、痛みに応じた肩の治療に取り組みます。
- 痛みはないが、肩の動きが悪い時期
→この時期になると「肩は上がるようになったが横から挙げられない」「手が後ろに回らない」などできない動作を訴えるようになります。この時期では、積極的に関節可動域訓練や断裂部位への負担が無いような筋力訓練を取り入れます。
!ポイント:この時期では、積極的な関節可動域訓練、筋力訓練を行います。
腱板断裂の治療は症状にもよりますが、一人一人異なります。「家庭の状況で手術ができない」「手術はしたくない」という方は是非、一度足を運んで頂けたらと思います。誠心誠意、対応させて頂きます。
【当院へ診察に来た腱板断裂患者数】 (R1.5.1~R5.3.30まで)
腱板断裂 307名 腱板不全断裂203名