※月刊おきなわ野球大好き12月号に記載した記事です
【はじめに】
今回は、高校野球の冬トレシーズンに多発する足の障害〔脛骨過労性骨膜炎(けいこつかろうせいこつまくえん):以下MTSS〕・脛骨疲労骨折について発信したいと思います。
【MTSSとは?】
下腿(ふくらはぎ)にあるヒラメ筋や長趾屈筋(ちょうしくっきん:図1参照)などが下腿筋膜を介し骨膜を牽引(けんいん:ひっぱる事)することで生じるとの報告があります。骨膜が牽引される要因としては複数挙げられます。
図1 |
①脛骨のマルアライメント(骨の配列が崩れた状態の事)
②下腿屈筋群の硬さによる足関節可動域制限
③内側ハムストリングスやヒラメ筋の機能低下(力入れずらい事や筋力が低下している事)
④体幹・骨盤帯の機能低下に影響される後方重心での動作の繰り返し
⑤外側荷重による重心の不安定性に起因する下腿内側屈筋群の過使用
【痛みが発生する動作は?】
基本的に急性発症であれば、疲労骨折の亀裂の増悪を疑います。MTSSのほとんどは、慢性的な痛みであり、ランニング・ジャンプ・方向転換動作などが関連しています。
動作の痛みでは、どのフェーズで痛みが出現しているのかを確認するといいと思います。
【痛みの種類】
MTSSには特有の圧痛部位があります。また疲労骨折には、跳躍型と疾走型があり疾走型には近位1/3と遠位1/3と2箇所あり全部で3箇所の痛みの場所に分かれます。
【痛みをチェックする場所:圧痛部位…押して痛い場所】
○:疾走型(脛骨近位疲労骨折圧痛部位)
△:跳躍型(脛骨疲労骨折の圧痛部位)
□:MTSSの圧痛部位、骨表面、筋膜付着部、筋組織の広範囲に圧痛が認められる場合が多い
×:疾走型(脛骨遠位疲労骨折圧痛部位)
図2 | 図3 |
【セルフチェックポイント(どの筋肉か、力入れて痛み出るのか、筋肉を伸ばして痛みが出るのか、動作か)】
・伸張時痛(筋肉をストレッチングした状態で痛みが出るのか)
赤い矢印の方向にストレッチングをかける
①左膝曲げた状態で足関節背屈位(足首を挙げる動き)…ヒラメ筋
②中央足関節背屈+足部外反(足首を小指側に捻る動き)…後脛骨筋※図1参照
③右足関節背屈+足趾伸展…長趾屈筋
図4 ① ② ③ |
・収縮時痛(対象とする筋肉に力を加えると痛みが出るのか)
赤矢印は足の動き。青矢印は徒手で抵抗を加える方向。
①左抵抗下での足関節底屈(足首を下げる動き)
②中央足趾屈曲(足の指を曲げる動き)
③右足関節内反(足首を親指側に捻る動き)
図5 ① ② ③ |
・叩打痛の確認(足裏から骨へストレスを与えて痛みが出現するのか)
青い矢印はかかとを叩く方向
すねを直接叩打してもMTSSと疲労骨折の鑑別ができない為、足底(かかと)への叩打で評価する。
※痛みがある場合は、疲労骨折が疑われます。
図6 |
・動作時痛(どのような動作で痛みが出るのか)
①膝伸展カーフレイズ(膝を伸ばした状態でかかと挙げ)
②膝屈曲カーフレイズ(膝を曲げた状態でかかと挙げ)
図7 ① ② |
【セルフエクササイズと予防】
ゴール設定やスポーツ動作開始に向けて、専門家であるDr.や理学療法士、あるいはチームについているトレーナーに確認するといいと思います。
MTSSは、基本的に炎症度合いの質によって治療スケジュールを決定します。
患部周囲の
①腫脹(はれ)がない場合
②固まってきた腫脹がある場合
③柔らかい腫脹がある場合
で分けます。
①は患部痛のコントロールが必要です。次第に機能の獲得を目指します。
②は固まってきた腫脹に対して、患部に積極的にアプローチを行います。約10日程度で腫脹・痛みのコントロール、機能の獲得を目指します
③は新鮮な腫脹であるためアイシングによって患部の炎症をコントロールする。2〜3週間安静を要する場合もあります。
尚、股関節周囲筋の硬さはMTSSの発症に関与するとの報告もあります。
患部はスネなのですが、発症要因に隣接する関節である足関節や股関節関与する為、股関節や大腿のストレッチや足部周囲のストレッチに加え軽いエクササイズも推奨します。
〈獲得、改善すべき点〉
・下腿内側のストレッチ(柔軟性・滑走性獲得)
赤い矢印の方向に足を上げながら下腿内側を把持する
図8 |
・すね内外側のストレッチ(柔軟性獲得)
赤い矢印の方向に足関節・膝関節を上下・屈伸させる
図9 |
・大腿外側ストレッチ(柔軟性獲得)
ポールを赤い矢印の方向に転がして、大腿外側にダイレクトストレッチングを促す
図10 |
・タオルギャザー(足底の内在筋)
赤い矢印の方向(奥から手前に)足の指で引き寄せる
図11 |
・チューブエクササイズ(外反)
開始姿勢から収縮姿勢。収縮姿勢は、小指を天井につけるイメージで足を動かす。
図12 |
【まとめ】
- MTSSは疲労骨折との鑑別、疾走型と跳躍型で治療や予防の仕方が変わる。
- 下腿の柔軟性低下が主な要因として挙げられるが、股関節や足関節周りの柔軟性も関与する。
- 身体の使い方や自らの下肢のマルアライメントが影響して負担が来ることもある。
- 時期に合わせて、消炎対応(アイシング等)やセルフエクササイズを行うことが重要である。
【参考・引用文献】
・メディカルサイエンス・インターナショナル 監修:青木治人・清水邦明 編集:鈴川仁人 スポーツリハビリテーションの臨床 p122〜133
・佐藤純也ら:股関節周囲筋のタイトネス改善が症状改善に有効であったシンスプリント(MTSS)の1例
・原著:三好将太ら6名 長距離ランナーにおけるMedial tibial stress syndromeと身体機能の関連 理学療法科学35(3):355-359,2020/10/20
・medicalview 監修:片寄正樹 編集:小林匠ら2人 足部・足関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨書思考を紐解く