【はじめに】
今回は、元阪神の濱中氏が帰塁動作で、元巨人の岩隈氏は投球時に肩関節脱臼。最近では、現中日の木下投手が投球時に脱臼。現メジャーリーグパドレス所属のフェルナンド・タティス・ジュニア選手が打撃の際の肩関節亜脱臼を生じました。多いようで少ない、野球選手の肩関節脱臼について発信していきたいと思います。図1は野球で脱臼が多い場面。
【脱臼と亜脱臼について】
まず、脱臼と亜脱臼は、教科書的に定義がされていないものが多い事がわかっています。説明は図2に記載しています。
また、脱臼には外傷性と非外傷性がある事も報告されています。どちらも一度脱臼をする事になるのでその際に骨が陥没(かんぼつ)したり、関節唇(かんせつしん)が剥がれたりする可能性があります。図3
※整復は、素人が無理やり行うと骨折したり、関節唇が大きく剥がれたりする可能性があります。
【症状(自覚、他覚)】
普段は自覚症状がほぼないが、脱臼をきたすと激痛と上腕骨頭が前下方に逸脱するため肩関節前方部の変形がおこる場合がある。また、脱臼をしていなくてもMERの姿勢:図5)などの姿勢で不安感を訴える事がある。
【検査方法】
脱臼や亜脱臼の検査方法は、視診や問診、レントゲンで主に確認します。図4
レントゲンに関しては、病院でしか確認できません。
脱臼した際は、実際の動作で確認する事は困難です。(痛みの出現と動かない為)
脱臼しやすいどうかを評価するためのセルフチェックを3つ紹介したいと思います。
①MER不安定感テスト 図5
ベッドより後方へ腕を持って行った際に、不安感や痛みが出現すると脱臼の可能性があると言えます。※特に不安感。痛みだけ出現したとしても、脱臼の可能性があると断言するのは難しいです。
②サルカスサイン 図6
上腕を下方へ牽引した際に、肩の骨より下に窪みが出現したら陽性反応。
③全身関節弛緩テスト 図7
8項目のうちできる数が多ければ多いほど、知らずに脱臼する可能性が高いと言えます。(※諸説あります)※カーター法と東大式を参考
【脱臼しやすいか知った後に行った方が良い事 〜トレーニング〜】
まず、①・②・③の現象が出現する選手は、肩関節のインナーマッスルとアウターマッスルの筋力があるのかを確認した方が良いかと思います。
筋力に自信がない人は、トレーニングを行うのも良いかもしれません。トレーニングは基本的に不安感と痛みがない範囲でお願いします。図7のQRに記載していますのでご覧ください。
(図7:肩甲骨周囲トレーニング、インナーマッスルトレーニング)
インナーマッスルは小さい筋肉ですので、セラバンドの負荷は軽いタイプにするようにしましょう。
白⇨黄色⇨赤⇨緑⇨青⇨黒⇨銀⇨金
上記の順番は軽い順です。左が最も軽い負荷。
【まとめ】
投球側の肩関節脱臼については、多いようで少ない症例になります。しかし、初回脱臼から反復性に移行した際(再脱臼する確率約90%)に、保存療法(手術を選択しない治療法)で治療を行っても元のパフォーマンスに戻りづらいとの報告もあります。そのため、自分の身体は関節の不安定性があるのか確認しておく必要があります。例えば、肩が痛くて思うようにパフォーマンスを発揮できない場合に、普通の野球肩ではなく、肩関節不安定症が隠れていてそれが元凶になる事も多々あります。
これらの事から、事前にセルフチェックを行うか、メディカルチェックを行っている病院や治療院に行く事が必要になってくると思います。
※脱臼の整復は医療行為ですので絶対に一般の人が行わないでください。
【参考文献・引用文献】
・新版 編集 菅谷ら 野球の医学223-228 投球側と脱臼の不安定症 文光堂
・臨床スポーツ医学:Vol22,No11(2005-11) 菅谷啓之 外傷性肩関節不安定症に対する手術治療
・臨床スポーツ医学:Vol25,No7(2008-7) 菅谷啓之ら 投球側における外傷性肩関節不安定症
鏡視下手術とスポーツ復帰
・Kitakanto Med J 2004:54:137~142 渡辺秀臣ら 平成14年度における高校野球投手の肩検診
・MEDICAL VIEW shoulder joint 村木ら 肩関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く 62-73 肩関節不安定症
・西古ら 全身関節弛緩症の評価法の検討 整形外科と災害外科 58(4)673~677,2009