【はじめに】
高校野球もプロ野球と同様に、オフシーズンが存在します。例年、12月1日~3月5日前後までをオフシーズンとします。この期間は、対外試合禁止期間にあたるため練習試合を行う事ができません。理由として、地域格差の解消や肩や肘の故障対策が挙げられます。しかし、走り込み中心のメニューが多いため下肢の肉離れや裂離骨折が多く起こる事も報告されています。
【肉離れと裂離骨折】
・肉離れとは、筋肉の損傷の中でも明らかな直達外力(直接働く力)による筋打撲を除いた総称である。受傷機転の多くが伸張位(遠心性(えんしんせい)収縮)である。※遠心性収縮とは、筋肉を伸ばしながら収縮する事。
主にハムストリングス(太ももの裏)や大腿四頭筋(太ももの前)に起こりやすい。
・裂離骨折とは、強力な筋収縮により、筋腱付着部が骨(骨端部)からはがれて骨折を生じるものである。
主に、縫工筋(ほうこうきん)が付着する上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)や大腿四頭筋が付着する下前腸骨棘(かぜんちょうこつきょく)、ハムストリングスが付着する坐骨結節(ざこつけっせつ)に多くみられます。
いずれも、中学生~高校生に多くみられます。
【受傷メカニズム】
≪肉離れ≫
疾走中の受傷はハムストリングスが多い。
・疾走中に振り出された脚が、接地動作に切り替わる際のブレーキ動作(振り戻し)としてハムストリングスを収縮させた場合に発生するスプリント型。
〈図1〉
・接地時に膝伸展位でハムストリングスが収縮している状態で、地面からの反発する力によって股関節が曲がるとハムストリングスに遠心性収縮のストレスがかかり受傷するストレッチ型。
〈図2〉
≪裂離骨折≫図3.4は文献1)から引用
・上前腸骨棘(縫工筋)
股関節伸展位(体幹-骨盤より太ももが後方へ移動する動作)から急激に屈曲する動作(体幹-骨盤より前方へ移動する動作)や膝を伸ばす動作で受傷。
・下前腸骨棘(大腿直筋)
膝が伸びている状態で、急激な抵抗が加わると受傷。
・坐骨結節(ハムストリングス:大腿二頭筋)
疾走動作で生じやすく、ジャンプ動作や前後開脚でも生じやすい。
〈図3〉
〈図4〉
【チェック方法】図5.6も文献1)から引用
≪肉離れ≫
・安静時痛の有無
・圧痛の有無(押して痛みがあるか)
・腫れの有無
・自発痛部分の凹みの有無
・収縮時痛の有無
・ストレッチング時痛の有無
評価方法として、
①うつ伏せで徐々に膝を伸ばしていきながら痛みを確認する。重症例は、膝が伸びきる前に痛みを訴えることがほとんど。(大腿四頭筋)〈図5〉
②膝を伸ばしきる事ができたら、仰向けで膝を伸ばしたまま股関節で下肢を挙げる。軽症ほど、下肢の挙がる角度が大きくなり、痛みを感じる前にストレッチ感があれば軽症であることがほとんどである。
(ハムストリングス)〈図6〉
肉離れを疑ったが、骨周囲の圧痛などがあれば、裂離骨折の可能性もあります。
≪裂離骨折≫
裂離骨折の場合は、骨の圧痛や腫れ、可動域制限を確認する。痛みが強い場合は、近医に受診しレントゲンなどの検査が必要になります。
【処置】
≪肉離れ≫
基本的にRICE処置を行います。
重症の場合は、RICE処置を行った後に近医でMRI検査やエコー検査を行う事をお勧めします。また、痛みの軽減とともに早期復帰した場合は、再発リスクが高まります。
RICE処置と安静度を保ちながら、患部の治癒経過を確認し(エコー検査)、状態次第でリハビリテーションを開始する。
≪裂離骨折≫
RICE処置を行い、近医で診察を受ける事をお勧めします。骨折で骨のズレが少ない場合は基本的にアイシングやリハビリテーションで十分になります。一方、骨のズレが大きいと手術療法を選択しなければならないケースもあるので慎重に評価を行う事が重要です。図7は2)から引用
〈図7〉
【主な要因】
・骨盤の可動性低下、股関節周囲筋の柔軟性低下
腰部周囲筋と股関節周囲筋の柔軟性低下
・ウォームアップ不足
筋肉の柔軟性を獲得しない状態でのオーバーユース。(使いすぎ)
・クールダウン不足
練習で疲労が溜まった状態のケア不足。
【要因に対しての対処法】
・股関節周囲のストレッチ(セルフとマンツーマン)〈図8〉
・ウォームアップやクールダウン〈図9〉
【まとめ】
・冬トレシーズンは、投球障害肩・肘よりも下肢のトラブルがとても多い。
・肉離れと裂離骨折に関してはしっかり判別を行う必要がある。
・走り込みやトレーニングメインのため、入念にウォームアップやクールダウンを行う必要がある。
【参考文献・引用文献】
1)編集 広瀬ら4名 アスレティックトレーニング学 アスリート支援に必要なクリニカル・エビデンス 文光堂 p299-303
2)イラストAC