投球に必要なトレーニング

【はじめに】

 前回、「投球初期動作が及ぼす影響」で下半身の使い方やトレーニングを紹介したので、今回は、投球障害で多い肩関節周囲に着目してトレーニングを紹介していきます。

【投球障害の要因】

投球障害の要因は大きく3つに分けられます。

  • 柔軟性の問題:練習の積み重ねによるオーバーユースで筋肉や腱、靭帯が硬くなり関節の動きが悪くなる。
  • 筋機能の問題:オーバーユースによる筋力低下やトレーニング不足で筋力が不十分だったり、思い通りに筋収縮が調節できない。
  • モーターコントロールの問題:投球のいいイメージが出来ていない。(いいフォームの手本が頭にできていない)イメージはできているけど、その通りに体を動かせない。

それぞれの問題はストレッチやトレーニングによって改善することができます。

【肩周辺のセルフチェック】

  • 筋の硬さチェク(図1)

投球の繰り返しにより肩後方、肩甲骨の下、肋骨の間が硬くなり、これらの部位の硬さは胸郭の動きを妨げてしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

図1

 

  • 肩甲胸郭の動きのチェック(図2)

肩後方、肩甲骨の下、肋骨の間の筋群が硬くなると胸郭と肩甲骨の動きが悪くなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2

 

肩関節周辺・上部体幹に対するトレーニングの重要性

 投球動作において肩関節の可動性が重要であり、投球障害予防の観点からその必要性を示す報告も数多くあります。図3のように、投球動作では胸椎の反り(伸展)に伴う肩甲骨の可動性は特に重要です。そこで、上部体幹から腕にかけての可動性を獲得するためのトレーニングを行う必要があります。
図3

 

 

胸椎伸展トレーニング

  • ストレッチポールなどを背中の位置におき、バンザイ姿勢を作る。その後、肩甲骨を背骨に寄せながら腕を横から下ろす。(図4)

 

 

 

 

 

 

 

 

図4

  • シャフトなどをバンザイした姿勢から胸を反りながら、可能な限り腕を下ろしていく。(図5)

図5


上部体幹の回旋トレーニング

  • 非投球側の手を地面に置き、姿勢を保持した状態で、投球側の肩甲骨を寄せるように上部体幹を回旋させる。(図6)

 

 

 

図6

両膝でボールを挟んだ状態で座り、棒を両肩に置く。ボールと頭のラインがブレないように、テイクバックとフォロースルーをイメージしながら上部体幹を回旋する。(図7)
図7


インナーマッスル(腱板)トレーニング

 インナーマッスル(腱板)は肩関節の安定性に必要な筋です。スポーツ障害肩の約60%に腱板機能障害が認められたとの報告もあり、インナーマッスルの機能回復はスポーツ障害肩の改善にとって必要です。

  • 棘上筋

肘を伸ばしたまま、体の斜め前に腕を約30°開く(図8)

 

 

 

 

 

 

 

 

図8

  • 肩甲下筋

肘を90°曲げ、肘が体から離れないようにゴムを内側に引っ張る(図9)

 

 

 

 

図9

 

  • 棘下筋

肘を90°曲げ、肘が体から離れないようにゴムを外側に引っ張る(図10

 

 

 

 

 

図10


【まとめ】

 今回は、投球障害で多い肩関節周囲に着目してセルフチェックやトレーニングを紹介しました。肩や肘を痛める要因として肩甲骨・胸郭の可動性低下や筋力低下・体の使い方がうまくできていないなどが考えられます。野球選手にとって肩や肘は消耗品と言われますが、コンディショニングをしっかり行えば怪我予防はできると思います。より良いパフォーマンスが出来るように、日々ストレッチやトレーニングを行ってみましょう。

【参考文献・引用】

・【編集】菅谷啓之 能勢康史 新版 野球の医学

【編集】筒井廣明 山口光國 千葉慎一:投球障害予防&治療プラティカルガイド メディカル・スキル・コンディショニングの架け橋に