【はじめに】
皆さん、夏場に起こりやすい足のつり(筋痙攣:きんけいれん)の事、どこまでご存知ですか?今回は食事による予防策と足がつった際の主な対処法を紹介していきたいと思います。
【足がつる原因】
原因として、いくつか挙げられ、諸説もたくさんあります。今回はピックアップして7つ挙げようと思います。
①筋肉の硬さ(柔軟性低下)
筋肉が硬いと柔軟性低下が生じ筋肉が痙攣した状態になってしまう事がある。
②脱水症状(水分不足)
③ナトリウム不足
④塩分不足
⑤カリウム不足
⑥カルシウム不足
⑦マグネシウム不足
体内に水分とミネラルである、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムが不足した状態になると、筋肉への神経伝達がうまく機能しなくなり、足がつってしまう事がある。
⑧糖質(炭水化物)不足
⑨ビタミンB1不足
上記の2つが不足するとエネルギー産生機能が十分に機能しなくなる事がある。
【対処法】
主につりやすいのは、2つの筋肉です。どちらも太ももの筋肉で、前面に位置する大腿四頭筋(だいたいしとうきん)と後面に位置するハムストリングスです。
⑴大腿四頭筋(太ももの前面)
まず、つった際(選手がいた際)は慌てずに何かにしがみついた状態でうつ伏せになりましょう。「図1」
⑵ハムストリングス(太ももの後面)
この筋肉の場合は、仰向けになりましょう。「図2」
基本的には、勢い良くストレッチングをかけるのではなく、ゆっくり息を吐かせながらストレッチングを行います。
※勢い良く行うと、他の部位もつる可能性もあるので注意しましょう。
一度のストレッチングで5秒〜10秒間伸張させるようにしましょう。
※また、反対側の筋肉に力を入れ、対象の筋の緊張を抜く方法も推奨されることもありますが、今回の経験上、逆に緊張が入って他の部分も攣ることもありましたので参考になればと思います。
【食事による予防策】
食事に関しては、試合前のみ意識するのではなく、常に意識・習慣付けを行った方が良いと思います。
まずは原因の前述②③④⑧である水分補給、ナトリウム不足、塩分不足、糖分不足から説明します。
水分摂取の目安として、
野球の場合は競技前に250ml〜500ml、競技中には1時間単位で500ml〜1000mlを推奨します。
また、汗のかき方で個人差があるため汗の量と合う水分量を摂取することが重要になります。
例えば、スポーツドリンクには塩分である塩化ナトリウムや糖分が含まれており、甘さゆえに薄めてしまうと塩分や糖分も薄まる可能性があります。その際、水分のみの取りすぎで低ナトリウム血症になる可能性があります。
症状には、倦怠感や吐き気、筋肉のつりなどが挙げられます。重症になると呼吸困難になり、死に至る可能性もあるので注意が必要です。このような状態を水中毒と言います。
ベストな水分補給のポイントをまとめると図3︎のようになります。
また、水中毒にならないためにも、水分を体外に放出する役割がある⑤のカリウムを摂取することも重要です。「図4」
カリウムを含む食材は図4のようになります。
③ナトリウム⑤カリウム⑥カルシウム⑦マグネシウムは筋肉の神経伝達に大きく関与しています。細胞内外のアンバランスが生じてしまうのは、これらのミネラルが少なくなることで起こってしまいます。
実際、今夏の高校野球に帯同させていただいた際に、足の筋肉をつる選手が数名いました。飲食について問診をしていると、ナトリウムとカリウムを含む食事は取っていましたが、カルシウム、マグネシウムが含んでいる食事の摂取は少ないことがわかりました。次戦までの1週間で、カルシウムとマグネシウムを摂取できる簡単な飲み物を試すように伝え、実践してもらったところ、試合ではつらずにパフォーンスを発揮することができました。このことから、ナトリウム、カリウムのみならず他のミネラルの摂取も重要だと再度確信しました。
水分、ナトリウム、カリウムを含む食事を積極的に摂取してもつる選手は試してもいいかもしれません。
したがって、カルシウム、マグネシウムを含む食材を紹介していきたいと思います。
カルシウムを多く含む食材は図5になります。
マグネシウムを多く含む食材は図6になります。
これらのミネラルは、普段の食事から摂取を心がけることをオススメします。
どうしても、大会前に不安があれば、液体での摂取を推奨します。(粉を溶かしたりするもの)体内の吸収が早いのは、固体よりは液体になるので大会前に摂取する際には、コンビニや薬局で販売しているものでいいかと思います。
また、ビタミンB1は糖質とともにエネルギー産生に機能しています。主に多く含む食材として豚肉などが挙げられますが、前述でも言っている通り試合前に豚肉を積極的に摂取するのではなく、常日頃から意識して食事の摂取を行った方がいいと思います。※試合前に豚肉を取りすぎると脂身が多い為内臓が疲れてしまう恐れがある。
【まとめ】
・筋肉をつった際のストレッチングはゆっくり行うこと。
・ベストな水分補給を意識することで、筋痙攣予防のみならず熱中症予防も行える。
・水分補給、ナトリウムやカリウムのみでは筋痙攣予防が難しい場合がある。
・試合前のその場しのぎではなく、練習や普段の生活から食事を意識した方が予防になる。
また、筋痙攣を起こしてしまった際に、熱中症も一緒に起こっている可能性もあります。万が一熱中症を認めた際の応急処置も紹介したいと思います。
FIRSTという応急処置方法があります。
F:Fluid(液体):意識があれば、経口補水液(OS-1:大塚製薬)などで水分補給を自分自身で行う
I:Ice(氷):氷嚢を腋窩、大腿部、頚部に当て、うちわなどで扇ぎ、身体を冷却する。
R:Rest(休息):涼しい場所に移動させて休ませる
S:Sign(症状):上記のFIRを行い、15分から30分間症状の変化があるかをみる。
T:Treatment(治療):症状の改善がなければ、119に通報し、病院を受診させる。
【参考文献・引用文献】
1)厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2020年版」
2)文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
3)菅谷啓之ら 新版 野球の医学 Ⅱコンディショニングとセルフケア 栄養・水分補給、夏場の筋痙攣対策 大前恵
4)三浦邦久ら 熱中症に立ち向かうー予防と応急処置 熱中症の予防 186 医学のあゆみ Vol.274No.2 2020.7.11