当院は肩の疾患を持つ患者様の来院が多いのですが、「痛みが出てもすぐに治ると思ったから病院に行かなかった」と耳にすることがあります。四十肩や五十肩は痛みが出現しても多くは自然に治っていきますが腱板断裂の場合は痛みが取れなかったり、断裂の大きさが大きくなってしまったり、筋肉が萎縮(やせ細る)する可能性もあります。
また、痛みが長引き肩を動かさない状態が続くと関節が拘縮(固まる)するリスクまであります。どういう症状・状態だと病院を受診したほうがいいのか迷うのではないでしょうか?今回は腱板断裂の症状や診断について詳しく解説していきたいと思います。
腱板断裂(けんばんだんれつ)とは
肩にはインナーマッスル(腱板筋群)と呼ばれる筋肉があります。このインナーマッスルは全部で4つあり肩甲骨から上腕骨に付着しています。上腕骨の上方・前方・後方に配置されており、肩関節を補強し安定させています。また、上腕骨を肩甲骨に引きつける役割も担っています。腱板断裂は、これら筋肉のいずれか、もしくはすべてが断裂している状態をいいます。断裂の大きさにより小断裂、中断裂、大断裂(図1)に分けられます。症状は人により様々で、痛みがでない人もいます。肩は日常生活を送る上でとても大切な役割を担っており、痛みがあると日常生活(着替えやお風呂、結髪など)の制限はもちろん趣味やスポーツ活動にも影響します。また、この腱板は一度断裂すると自然にくっつく事はなく、断裂の大きさが大きくなる人もいます。痛みが強い場合は服薬や注射にて痛みのコントロールをしながら、必要な人はリハビリを行っていきます。四十肩や五十肩も腱板断裂と同じように肩の痛みが出現しますが、多くは自然に軽快していきます。そのため痛みが長引くようであれば腱板断裂の可能性も考えなければなりません。
腱板断裂の原因
加齢によるものや、転倒・転落、重たいものを持ちあげる際に起こる外傷、若年者では投球動作など繰り返す外力により発症すると言われています。腱板断裂の頻度は50歳代では10人に1人、80歳代では3人に1人(住民検診による疫学調査にて)の割合で腱板断裂が存在する¹⁾といわれています。症状も様々であり、痛みが全く出ない人もいます。
腱板断裂の症状
・受傷直後、断裂部に強い痛み
・夜の痛み(夜間痛)や寝返り時の痛み
・反対の手で支えると挙がるが自分の力で上げる事が出来ない
・上げる際に“ゴリゴリ”と鳴る
・断裂した筋肉の萎縮(やせ細る事)
・肩を上げるときや下ろす時に60~120°で痛みがでる(図2)
腱板断裂の診断
腱板断裂の診断は画像診断と検査を行います。画像診断ではレントゲンやMRIを撮り、検査では各徴候の確認や筋力の検査(下記参照など)を行います。
①Drop arm sign:他動的に腕を上げ、支持を外すと急に下がる現象。
②Neer法:肩甲骨を押さえながら肩を内旋位で他動的に上げる。痛みがあれば陽性。
③Hawkins法:胸の前で肘を曲げ、肩を他動的に内旋させる。痛みがあれば陽性。
④棘上筋テスト:親指が床を指さすような内旋位で抵抗に逆らって上げる。筋力低下・痛みがあれば陽性。
⑤外旋筋力テスト:肘を90°曲げ、肘から先を外側に開く。外旋筋の断裂があると筋力低下を示す。
⑥Lift-offテスト:背中に手をまわし、その手を背中から離し保持する。肩甲下筋断裂では手は保持できず背部にくっついてしまう。
理学療法評価学 改訂第5版、ゴールド・マスター・テキスト 身体障害作業療法学 改訂第2版から引用
まとめ
肩の腱板筋群は、肩関節を補強し安定させています。また、上腕骨を肩甲骨に引きつける役割も担っています。この筋が断裂すると自然にくっつくことはなく、人によって断裂の大きさが大きくなることもあります。転倒や転落、重たいものを持ち上げて肩が痛くなった方や、きっかけがなくても上記の症状がある方は一度近くの整形外科に受診することをおすすめします。
参考文献
¹⁾標準整形外科学 第12版
腱板断裂の保存療法・手術療法について知りたい方はこちら
>保存療法
>手術療法
宜野湾整形外科 リハビリテーション科 作業療法士 島袋 花音