野球選手の腰部障害 −腰椎分離症−

【はじめに

 野球選手のスポーツ障害として、肩・肘関節の障害が注目されることが多いですが、腰部障害も決して稀ではありません。ある研究では、過去1年間の腰痛患者は553名中129(23.3%)であり、学年別では小学生10.1%、中学生22.5%、高校生61.3%と学年とともに増加していると報告もあります。そこで、今回は腰部障害の中でも腰椎分離症について発信していきます。

【腰椎分離症とは】

 腰椎分離症とは腰の疲労骨折のことです。発育期であり、スポーツ活動が多い10代に多いとされています。また、分離部は腰椎5番目が圧倒的に多いとされています。(図1)腰椎分離症に伴う腰痛の特徴として、腰を反る(伸展)動作で疼痛が増悪し、痛い方に体を捻りながら反る動作(Kemp徴候)でも疼痛が誘発されます。
図1


【分離症の多いスポーツ】

 腰を反る(伸展)捻る(回旋)動作が繰り返される競技において分離症の頻度が高くなるとされています。ある所属スポーツクラブの調査では男子は野球が最も多く、次にサッカー、バスケットの順で、女子はバレー、バスケットの順で発生頻度が高かったと報告されています。しかし、短距離や長距離などの陸上競技選手にも多く発症しており、ダッシュ動作時にはサッカーのシュート時と同様の動作が見られ、分離症発生に繋がる可能性があると報告もされています。このように考えた場合、ダッシュ動作いわゆる走り込みは、どのようなスポーツ競技においても練習や競技の一環として行われているので分離症発生の鍵を握っている可能性があります。

【分離症の病期分類】

 分離症には初期・進行期・終末期と分類分けされています。分離部の病期別での骨癒合率は初期94%,進行期 (浮腫あり)64%(浮腫なし)27%,終末期 0%との報告があります。(表1)

表1


【腰椎分離症になりやすい・再発しやすい選手の特徴】

 分離症になりやすい人や、治っても再発しやすい人の特徴は表2のような人です。
表2
そこで、ストレッチやトレーニングを紹介していきます。

【体幹安定性の評価・トレーニング】

 腰部障害の選手に対する体幹安定性の評価・トレーニングは、腰椎の安定化に関わる腹横筋(お腹深部の筋)の収縮運動から開始します。

・ドローイン(図2)

 仰向けで両膝を立て、お腹を使って深呼吸(腹式呼吸)します。息を吐く際にお腹を凹ますようにします。この時、両手をおへそ付近に置いて呼吸をすると意識しやすいでしょう。

図2

ドローインが可能となれば、次は腹斜筋群(お腹浅層の筋)を含めたお腹全体の筋を使って腹部を固めるブレーシングを行ってみましょう。

・ブレーシング(図3)

 ドローインの時と同じように腹式呼吸をするのですが、息を吐く際にお腹を凹ますのではなく、膨らませた状態をキープしながら息を吐きましょう。

図3

【股関節前面のストレッチ】

 股関節伸展(脚を後ろにする動作)可動域制限があると、投球時やバッティング、走る際に腰を反ってしまうことになるので腰椎分離を拡大させてしまいます。そのため、股関節の可動性を出す必要があります。

・腸腰筋(股関節前面の筋)ストレッチ(図4)

図4

・大腿四頭筋(太もも前面)ストレッチ(図5)
図5

ストレッチ時に腰が窮屈で痛くなる時は反り過ぎている可能性があります。分離症の病態でも説明したように、腰が反ったり捻ったりすると腰にストレスがかかり悪化する可能性があります。ストレッチを行う際は、お腹の力(腹圧)が抜けないように意識しましょう。


 

【まとめ】

 分離症は腰部障害の中でも多い疾患で、放っておくと選手生命に関わってきます。動作時に腰部に違和感や痛みが発生し、痛みが引かない場合は医療機関に行って、精密検査を勧めます。また、予防することもとても大切なことです。今できることから行い、満足いくプレーができるようにしていきましょう。

【参考文献・引用】

編集:菅谷啓介 能勢康史 新版野球の医学

竹林庸雄ら:特集:スポーツ外傷・障害診療実践マニュアル Ⅱ.部位別疾患 腰椎分離症

BM Orthop.23(5):75-80,2010