野球選手の腰部障害と予防トレーニング −腰椎椎間板ヘルニア−

【はじめに】

 腰部障害の腰椎分離症と同じく、野球選手に多い腰椎椎間板ヘルニアについてです。実際に、現場の選手やクリニックに通院してくる野球患者さんも腰痛を訴える人が多いと感じます。そこで、今回は腰椎椎間板ヘルニアに対するコンディショニングについて発信していきます。

【腰椎椎間板ヘルニア】

 腰椎椎間板は、腰の背骨に加わる衝撃を緩和するクッションの役割をしています。椎間板は真ん中にゼリー状の髄核(ずいかく)と呼ばれるものがあり、その髄核が外に飛び出してくることを椎間板ヘルニアと言います。腰椎椎間板ヘルニアになると、腰やお尻、脚に痛みや痺れが出現します。
図1


【腰椎椎間板ヘルニアになりやすい姿勢】

 椎間板に圧縮ストレスが加わると髄核が外に押し出され、腰椎椎間板ヘルニアになるリスクが増大します。普段の姿勢が猫背になっている方、身体が硬い方(特に股関節や太もも裏の筋肉)はボール捕球時や投球時に背中や骨盤が丸まってしまい、腰に圧縮ストレスが加わっている可能性があります。

【自己チェック方法】

 腰を前屈した際に腰痛や脚に痺れが出現する際は腰椎椎間板ヘルニアの可能性があります。また、腰椎椎間板ヘルニアが疑われる方は、下肢伸展挙上テスト(図2)や大腿神経伸展テスト(図3)で痛み・痺れが出現します。
図2
図3

【ウエイトトレーニングでの注意点】

 高校生は秋季大会が終了すると、春季大会に向け、体づくりに育む時期があると思います。そこで、注意して欲しいのが、ウエイトトレーニング時のフォームです。特に、高重量を扱うスクワットやデッドリフト、重いバット(マスコットバット)では腰を痛めるリスクが高いです。

スクワット

 スクワットではしゃがみ込んでいく時に骨盤や背骨が丸まってしまうと、椎間板内圧が増大しヘルニアになるリスクがでてきます。(図5)従って、図4のように背骨や骨盤が丸まらないように意識してしゃがみ込みましょう。
図4
図5

デッドリフト

 デッドリフトでは、スタートから骨盤や背骨が丸まっているとその後も丸まった状態でダンベルを持ち上げることになってしまい、腰にストレスがかかります。(図7)従って、図6のようにスタートの時から骨盤と背骨を直線になるように意識して持ち上げましょう。
図6
図7

【多裂筋トレーニング】

 多裂筋は背骨を安定させる筋の中で最も深部にあり、姿勢や背骨を安定させることに重要な筋肉と言われています。ボール捕球時に体を前屈させる時や高重量のウエイトトレーニングをする際に背骨の安定性がないと腰に負担がかかりやすくなります。そこで、多裂筋に刺激が入るトレーニングを紹介します。
図8

Hand-knee(図9)

・スタートポジションは四つ這いとなり、肩甲骨を少し背骨に寄せて、骨盤は丸めないようにしましょう。

・腹圧をかけながら片方の腕と反対側の脚をあげます。この時、腰が反ったりしないように意識しましょう。

図9

太もも裏ストレッチ

背骨が曲がらないように骨盤を立てて、その姿勢のまま股関節から曲げていきます。そうすることで、太もも裏の筋肉がストレッチできます。(図10)
図10

【まとめ】

 パフォーマンスアップの為にトレーニングや技術練習を行っていると思いますが、そのトレーニングや練習で故障してしまう訳にはいきません。どのような動き、姿勢をすると体に負担がくるのか理解し、故障しないようにしていきましょう。

参考文献・引用

公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科シリーズ2 腰椎椎間板ヘルニア

編集:成田 崇矢 脊柱理学療法マネジメント

編集:菅谷 啓之 能勢 康史 新版野球の医学